色覚検査の新しい方法CMT(Color Mate Test,「色のなかま」テスト)の紹介
I 問題の所在

 色覚異常は日本人男子の45%存在し、また、日本女性の10%が保因者(遺伝因子は持つが発症しない人)です。そして、この膨大な人数の人々に対して「色覚異常」を理由に進学・就職差別をしているのは国連加盟国中、日本だけです。
  米、英、ドイツ、スイス、ノルウェーなど調べましたが、色覚異常を理由に大学入学を拒否する国は見つかりませんでした。不思議なことに、盲学生は受験できるが、色盲学生は受験できない国立大学があるのです。
  アメリカの場合、色覚異常者が就けない職業は1級パイロット(旅客を乗せるパイロット)だけです。
  ユネスコ宣言「遺伝的な特質による差別を禁止する世界宣言」には、「遺伝的特徴にかかわらず、人はみな尊厳と人権を尊重される権利を持つ」のであり「その者の健康に対する直接の利益」が無ければ検査は許されないとされています。石原表検査をさせ、その結果で進学・就職差別をすれば宣言違反と言えましょう。
後に述べる、名古屋の眼科女医、高柳泰世先生のここ10年あまりの努力の結果、義務教育・高校進学・大学進学に対する差別は、かなり改善してきましたが、就職に対する差別等はまだ残存しており、改善の余地があります。

II 検査法の問題点(「石原表」の問題点)

学校で一般的に使われている学校用石原式色覚異常検査表(以下「石原表」)は鋭敏すぎて他の検査で正常と判定される人まで「異常」と判定する「欠陥検査」なのです。我が国における色覚異常は、石原氏の考案したこの検査表によって作り上げられた、「人工的障害」と言っていいと思います。
  石原表は徴兵検査で色覚異常者を排除するために生まれたものです。それを、平和になった日本の学校保健と言う一般社会の場に、そのまま持ち込んだこと自体が誤りであったと考えます。
  石原表で選び出される色覚異常の疑いのある子供は、男子の約48%、女子の約04%です。この児童をアノマロスコープ・テストとパネルD15テストで再検査すると、異常は男子の45%、女子の02%に減ります。男子でも相当数、女子では半数の誤診があるわけです。教育上支障があるような「強度異常」はこの男子の1/10、女子の1/20です。
  世界中で石原表検査(このレベルの詳細な検査を含む)を一般の国民が広く受けるのは日本しかありません。先進諸外国でも、石原表国際版は学問的には評価されています。しかし、一般社会で使うのには精度が高すぎるとして、日本のような使い方はされていません。
  学校保険の場で、とりわけ女子の場合は色覚検査をする必然性はないのではないでしょうか。
  日本学校保健会により「児童生徒の健康診断マニュアル」(平成7年3月)が発行されましたが、これによると、学校における色覚検査は、児童生徒が学習する上で支障があるかあるいは色彩に関わる学習に配慮が必要か等を知るために行うもので、色覚異常を検出することのみを目的とするものではない、とされました。石原表は、鋭敏に「異常」を(誤診をして必要以上に)検出しますが、それだけで何のフォローも無く、教育上いかなる配慮が必要かを教えてくれません。
  「インフォームド・コンセント」の立場からも、異常と診断された後、具体的な方策が示されないならば、色覚検査すべきでないし、受けるべきではないとおもいます。

III 新しい検査法:CMT(Color Mate Test−色のなかまテスト)の良い点

 現在、学校保健における健康診断は「学業遂行上配慮を必要とする児童生徒を選び出し、適切な事後措置をすること」と明記されています。「児童生徒の健康診断マニュアル」にも「学習に支障のない軽度の色覚異常については、特に異常とはみなさない」と書いてあります。
  学校の色覚検査も、石原表により「先天赤緑色覚異常」をもれなく選び出すと言う発想を転換しなければなりません。石原表は敏感すぎて、学業を進める上で現実に問題ある子の発見には不適切です。
  CMTは、金子隆芳・筑波大学名誉教授(色彩心理学−この方は色覚異常があります)を中心としたグループで作ったものです。「この程度なら教科書が見分けられる、あるいは見分けられない」という教育指導上の目安にする検査表です。
  石原表で色覚異常を指摘されても、このCMT検査で答えが全部正しければ、特に配慮する必要はありません。誤答した色の組み合わせが、配慮すべき色の組み合わせと分かり、教育指導・教材改善等に役立ちます。

IV 「色覚異常」の呼び方

 「色盲」、「色弱」は不適切と考えます。本来は、「石原表読解が困難な人」とでも言うべきでしょう。(「石原表」は読めないが、それ以外に何の不自由もない方がたくさんいます。)
  「色覚特異性」、「色覚特性」等の案があります。 病気と考えず、「個性」と考え、受け入れてゆく必要があるとおもいます。

X 眼科医の役割

 患者に「異常」の烙印を押し、奈落の底に突き落としておいて、その後何の手を差し伸べないことが、人の命を救うべき医者のやるべき事でありましょうか。
  患者の相談相手となり、その後の学習の支障を取り除き、進学・就職への道を示してやる事が(社会改革の運動を含めて)、眼科医に課せられた大きな使命なのではないかと思います。
  この為に、石原表を廃止し、CMT検査を広めていくこと。進学・就職の差別を少しずつでも良いから改善してゆく努力をすることが大事だと思います。

Y学校関係者の役割

  「石原表」を使い学習に支障のないような軽度の者まで「異常」のレッテルを貼る必要はないと考えます。その点「石原表」は過剰な検査であると考えます。
  学業に支障があるか否か分かる検査で十分で、それに当たる検査法は現在のところ「CMT」しかありません。CMTであれば具体的に判別困難な色を特定できます。
  検査に当たっては子供のプライバシーを最大限守ってやるべきであり、一人一人個別に検査し公表しないことが大事だと考えます。
  その他大事な配慮として
  a)緑板に赤色のチョークを使わない
  b)判別しにくい色がまじっているときには、黒線や白抜き線等で区別する。
  C)色だけを手がかりにせず、形・記号・説明文字などで区別がつくよう配慮する。
等が上げられます。
  また、これからの課題は、資格取得や就職差別が主になりますが、その職業が支障無くこなせるかは、石原表で決めるのではなく、仕事の現場で仕事に支障がないかで決めてほしいと、企業側にも働きかけてほしいと思います。
  最後に、興味のある方は是非下記文献1をお読み下さい。

Z 本の紹介

文献1:つくられた障害「色盲」 高柳泰世 朝日新聞社
文献2:たたかえ!色覚異常者 高柳泰世 主婦の友社

[ 「CMT」の販売

「CMT」はリィツメディカル(TEL 0533-72-5210)で購入することができます。
値段は5,500円程度で、5枚の色カードからなっています。
岩瀬眼科 医院所在地:〒190-0013立川市富士見町1−31−18
TEL042-521-2525 FAX042-528-8367